大判例

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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1400号 判決

【主文】

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が訴外徳矢太朗に対する大阪法務局所属公証人常安政夫作成昭五七年第七三九三号準消費貸借契約公正証書の執行力ある正本に基づき別紙不動産目録記載の各不動産に対する訴外徳矢太朗持分九分の二につきした強制執行は、これを許さない。

三  訴訟費用中、第一審に関する分は控訴人の負担とし、第二審に関する分は被控訴人の負担とする。

四  本件につき当裁判所が昭和五八年八月二三日にした強制執行停止決定は、これを認可する。

五  前項に限り仮に執行することができる。

【事実】

「請求原因

1  控訴人は、昭和五七年一一月三〇日、奈良家庭裁判所において遺言者亡徳矢忠太郎(以下「忠太郎」という。)の遺言執行者に選任された。

2  被控訴人は、忠太郎の長男である訴外徳矢太朗(以下「太朗」という。)に対する貸金債権につき、大阪法務局所属公証人常安政夫作成昭和五七年第七三九三号準消費貸借契約公正証書(以下「本件債務名義」という。)を有する。

3  被控訴人は、同年一一月九日、大阪地方裁判所堺支部において、太朗が忠太郎の所有であつた別紙不動産目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)につき相続人として共有持分九分の二を有するとして右共有持分につき右貸金債権を被保全権利とする仮差押命令を得たうえ、右仮差押登記請求権に基づき本件不動産につき別紙登録目録(一)記載の相続を原因とする所有権移転登記を経由し、続いて右仮差押命令に基づき本件不動産に対する太朗持分九分の二につき同登記目録(二)記載の仮差押登記を経由し、更に本件債務名義に基づき同年一二月一一日奈良地方裁判所において強制競売開始決定(同庁昭和五七年(ヌ)第三四号事件)を得て、本件不動産に対する太朗持分九分の二につき強制執行をし、同登記目録(三)記載の差押登記を経由した。

4  しかし、太朗は、昭和五八年七月一二日奈良家庭裁判所昭和五七年(家)第一一〇五号推定相続人廃除申立事件の審判により忠太郎の推定相続人であることを廃除され、同審判は同年八月一〇日確定したので、同人は遡及的に本件不動産につき何らの相続持分権をも有しないこととなつた。

5  ところで、忠太郎は奈良地方法務局所属公証人内山豊碩作成昭和五二年第一四〇五号遺言公正証書をもつて本件不動産を次男訴外阿部司朗(以下「司朗」という。)に遺贈する旨遺言していた(以下「本件遺贈」という。)ところ、忠太郎は昭和五五年三月二二日死亡したので、司朗は同日本件不動産の所有権を取得した。

6  よつて、被控訴人が右司朗の所有にかかる本件不動産に対してした前記強制執行は違法であり許されないから、控訴人は右強制執行の排除を求める。」

【理由】

一請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、同4の事実中太朗が控訴人主張の日その主張の審判により忠太郎の推定相続人であることを廃除され、同審判が控訴人主張の日確定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右認定の事実によれば、太朗は忠太郎の死亡時にさかのぼつてその相続人でなくしたがつて本件不動産につき何らの相続持分をも有しないこととなつたといわなければならない。

三<証拠>によれば、同5の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

四そこで、以上の事実関係に基づき、司朗と被控訴人との対抗問題について判断する。

本件遺贈も意思表示により物権変動を生ずる場合に該るから、司朗が本件遺贈により本件不動産の所有権を取得したことをもつて民法一七七条の「第三者」に対抗するためには、司朗が右所有権取得につき登記を経由する必要のあることはいうまでもない。

しかしながら、被控訴人は、前記争いのない請求原因3記載のとおり本件不動産に対する太朗持分九分の二につき差押をした債権者であるとはいうものの、前記二説示のとおり太朗が忠太郎の死亡時にさかのぼつて本件不動産につき何らの相続分権をも有しないこととなつた結果、右差押の対象たる権利が遡及的に消滅して実質的無権利者となつた(推定相続人廃除の遡及効については、法定解除の遡及効に関する民法五四五条一項但書のように第三者との関係においてこれを制限する規定はおかれていないから、上記のように解するほかはない。)から、本件遺贈との関係で民法一七七条の「第三者」には該らないというべきである。よつて、被控訴人の主張1は理由がない。

なお、右の点に関し、被控訴人は太朗の子らによる本件不動産共有持分九分の二の代襲相続を云々するが、被控訴人が前記差押をした本件不動産に対する太朗持分九分の二と右代襲相続人らの相続にかかる本件不動産共有持分九分の二とは観念的には別個の権利であつて、被控訴人のした前記差押の効力がこれに及ぶ訳でもなく(なお、被控訴人が本件債務名義に基づいて債務承継人でもない右代襲相続人らの相続にかかる右不動産共有持分に対し強制執行しうる訳でもない。)、右代襲相続があつたとしても、前記のとおり前記差押の対象たる権利が遡及的に消滅して被控訴人が本件不動産につき無権利者となつたことには変りはないから、右代襲相続は前記結論を何ら左右するものではない。よつて、被控訴人の主張2も理由がない。

五してみれば、被控訴人が司朗の所有にかかる本件不動産に対してした前記強制執行は許されないから、忠太郎の遺言執行者としてその排除を求める控訴人の本訴請求は理由がある。

よつて、右と結論を異にする原判決は不当であるから、これを取り消したうえ控訴人の本訴請求を認容することとし、民訴法九六条、八九条、九〇条、九一条、民事執行法三八条四項、三七条一項を各適用して主文のとおり判決する。

(栗山忍 河田貢 松尾政行)

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